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野沢温泉「旅館さかや」【口コミ】
野沢温泉 麻釜
長野県の野沢温泉は、天然雪100%のパウダースノーが楽しめるスキー場として、国内外のスキー客に親しまれています。
しかし、スキーをしない人にとっても、温泉を楽しむだけで十分に魅力ある場所です。
私も以前、野沢温泉の外湯を体験してから、体の芯からポカポカ温まり湯冷めしない泉質にすっかり魅了されてしまいました。
そこで今回は外湯ではなく、宿泊して旅館の内湯を体験することにしました。
旅館さかや
旅館 さかや
本格的な秋を迎えた9月下旬、夫と野沢温泉のなかでも老舗と言われる「旅館さかや」に宿泊しました。
旅館さかやは、13個ある野沢温泉の外湯をめぐる温泉街の真ん中あたりに位置しています。
歴史も古く、開業は江戸時代まで遡り、現在のご主人で18代目とのこと。元は造り酒屋だったというのが、この屋号の由来だそうです。
さかやは、外湯のなかでも中心的存在と言われる「大湯」のすぐ近くにあり、その佇まいに老舗旅館の風格があります。
旅館さかや 玄関
玄関前に車を横付けすると、スタッフの方がすぐに駆け寄り、荷物を預かってくれました。
車はスタッフが鍵を預かり、旅館の裏側の駐車場に運んでくれます。
ロビー 右側の壁掛けは岡本太郎デザインの野沢温泉観光ロゴ
玄関に入ると、すぐに目に入るのは、特徴あるデザインの織物の壁掛け。
これは、野沢温泉にゆかりのある芸術家の岡本太郎氏が書いた「湯」の文字を、野沢温泉村の観光宣伝のイメージロゴとしてデザインしたものだそうです。
ロビー
その先にはロビーが広がり、大きな窓から手入れの行き届いた日本庭園が見えます。
ロビーのソファに座って待っていると、若い女性のスタッフが来て、滞在の日程、食事、お風呂等の説明などをしてくれました。
Wi-Fiも完備し、すぐに設定することができます。
旅館さかやは、温泉街の旅館にあるしっとりとした雰囲気と、あまり干渉してこないホテルのような気軽さの両方を併せ持つ旅館でした。
老舗旅館にありがちな堅苦しさはなく、スタッフも適度に距離感を保ちながら、とても丁寧で親切な対応でした。
客室
宿泊した部屋は、5階の次の間付きの客室。

次の間つき和室
寝室になる和室の隣には、掘りごたつの洋間が続き、さらに荷物を置いて着替えなどに使える次の間付きのゆったりとした客室です。
清潔にお掃除がしてあり、のんびりと寛げる空間でした。
入り口の小さな台所には、野沢温泉のお水が冷蔵庫に冷やしてあったり、エスプレッソが淹れられるコーヒーメーカーがあり、戸棚にはカップや茶碗も豊富に用意されています。
今回は使用しませんでしたが、小さなお風呂もついています。
洗面所には、タオルなどを乾かすヒーターの設備もあり、スキーで訪れた冬場は特に助かると思います。
散策
夕方4時半から、旅館の周りを30分ほど散策しながら案内してくれるということなので、軽装に着替えて表に出ました。
散策には、5組ほどのお客さんが参加。案内役の男性スタッフの後に着いて、野沢温泉村の独特の坂道を登ったり降りたりしながら歩きました。
外湯「大湯」
温泉街の至る所で見られる坂道
外湯の「大湯」の横を通り過ぎると急な坂道になり、坂道の周りには民宿や湯治客用の宿が並んでいました。
湯沢神社
上り坂を上がっていくと、正面に古い神社が見えてきます。
湯沢神社という神社で、創建年代は不明だそうですが、周りの鬱蒼とした杉の大木から見て相当古くからある神社のようです。
野沢温泉の発見は奈良時代と言われていますので、かなり昔から温泉の村の鎮守として鎮座していたのではないでしょうか。
現在の社殿は、江戸時代に造営されたものだそうです。
湯沢神社
健命寺
湯沢神社の隣にあるのが、薬王山健命寺というお寺です。
こちらは、創建は戦国時代とのこと。上杉氏の家臣だった市河氏の寄進で建てられたお寺とのこと。
歴史好きとしては、戦国武将も野沢温泉で戦いの傷を癒したのでしょうかと往時が偲ばれます。
このお寺も、現在の建物は江戸時代のものだそうですが、本堂は改装中で青い網のシートが貼られていました。
薬王山健命寺
また、健命寺には野沢菜発祥の地の石碑が建てられています。
碑文を読むと、健命寺の8代目の住職が京都遊学をしたときにかぶの種を持ち帰り、栽培したのが、野沢菜の始まりと書かれてあります。
野沢菜漬けに、こんな歴史が言い伝えられていたと初めて知りました。
野沢菜発祥の地 石碑
健命寺と湯沢神社の周りには樹齢数百年とも思われる杉の古木が立ち並び、じっと静かに見守ってきたような厳かな雰囲気が漂っていました。

杉の古木
古木たちを右手に眺めながら山道を行くと、温泉街を見渡せる高台に着き、眺めのよい景色が広がっていました。
雲がなければ、遠くに斑尾高原や妙高山などがよく見えるとのことですが、その日は残念ながら雲が湧き、すっきりとは見えませんでした。
それでも空気は澄み、気持ちが広々とする眺望です。
標高もずいぶん高いのだろうと案内役のスタッフさんに尋ねると、温泉街の標高は600メートルほどということで少し驚きました。
スキー場はここからかなり登り、高いところでは標高1600メートルまで行くというので、さらにびっくり。
野沢温泉スキー場は、標高差が大きいスキー場として有名なのだそうです。
途中の山道からの眺め
麻釜
下る途中に麻釜という天然記念物になっている場所がありました。
麻釜というのは、5つある源泉の湯だまりのことで、野沢温泉一番の観光スポットです。
麻釜という名前は、かつてこの湯だまりのお湯に麻をつけて柔らかくしたことに由来するそうです。
それぞれの釜からはぶくぶくと音がし、絶えず煙が出ています。湧出温度はかなりの高温で70度〜90度もあるそうです。
野沢菜を茹でる地元の人
麻釜には一般の人は入れませんが、地元の人は野菜や卵をこの温泉で茹でるなど、日常的に台所のように使っています。
この日も何人かの地元の人が採れたばかりの野沢菜を茹でていたので声を掛けると、「食べてみな」と茹でたての野沢菜をひとつまみくれました。
それまで野沢菜は醤油でつけた漬物しか食べたことがなかったのですが、温泉に茹でられて艶やかな濃い黄緑色に仕上がった野沢菜は、ほうれん草とはまた違った色合い。
口にすると、くきくきとした歯ごたえがあり、ほのかな苦味も感じられます。
採れたての新鮮な野菜が持つ滋味が、温泉によって引き出されているのでしょうか、調味料もつけていないのに味わい深い一口でした。
麻釜の脇の土産物屋さんを眺めながら、また歩みを進めると、「ミニ温泉広場ゆらり」という無料の足湯コーナーがありました。
ここでは山々を眺めながら足湯に浸かったり、また観光客用に温泉卵を茹でられるようになっています。
足湯広場を抜けて下り坂をゆったり下っていくと、左手に旅館さかやの建物が見えてきます。
ちょうど、さかやの下道から山沿いに坂道を一周してきたことになります。

周辺では新しく、さかやの別館を建築中でした。
散策に出発した大湯の脇の道は、反対側は大湯通りという野沢温泉の目抜き通りに続きます。
雪にはまだ早い秋口の平日の昼間、観光客も少なく温泉街はとても静かでした。
大湯通り
温泉
二階 お風呂へ
30分ほどの散策を終え、いよいよお楽しみの温泉です。
さかやのお風呂は、源泉掛け流しの自噴の温泉で、ここでしか味わえない極上の生源泉。泉質は、単純硫黄泉で無加水、無加温。高温なので消毒も一切なしです。
源泉はそのまま飲むこともできます。
大湯が近いので、大湯と同じ泉質かと思ってスタッフに聞いたところ、違う泉質とのこと。
そういえば以前外湯に入った時に、13個ある外湯は全て泉質が違い、それどころか、自噴している宿泊施設にもそれぞれに独自の温泉が湧き、野沢温泉にはなんと30以上の源泉があるという話を聞いたことがありました。
「大湯とは違う、当館だけの温泉です。」と語るスタッフの語り口はとても誇らしげに見えました。


渡り廊下
お風呂は二階にあり、中庭を見渡せる長い渡り廊下の先にあります。
男女別の大浴場と、それぞれに露天風呂、さらに予約制の貸し切り風呂がありました。
女性用大浴場「月の湯」
男性用大浴場「鷹の湯」
湯屋の造りは宮大工の手によるもので、仄明かりに照らされる湯船は、温泉風情にあふれています。
浴室に入ると、ほのかな硫黄の匂い。湯船に浸かる前にかけ湯をしようと、うっかり源泉に手を出したら、あまりの熱さにびっくり。
源泉は68℃とかなり熱いです。
しかし、湯升という箱のようなものにため湯をし、冷まして湯船に流す仕掛けで、「あつ湯」でもすんなり入れるくらいの温度になっていました。
もちろん別の湯船の「ぬる湯」もこの仕掛けのおかげで加水なしで適温になっています。
さらに底の浅い「腰湯」では、長くゆっくり浸かっていることができました。
外の露天風呂は、内湯と違う源泉かと思うくらい白濁していました。
後でスタッフの方に伺ってみると、内湯と同じ泉質だそうで、陽の光や、時間によって色合いが変わるらしく、ここにも生源泉の不思議を感じました。
お風呂には滞在中何度も入りましたが、熱過ぎることもなかったので湯あたりもせず、思う存分堪能できました。
また、さかやの温泉は美肌の湯とも言われていて、湯上りに触ってみると、確かに肌のしっとり感が違います。
機会があったらお肌のためにも、ぜひ湯治で長期間滞在したいなと思いました。
長野オリンピック関連の展示
男女の浴室のあいだには休憩室があり、スキーウエアや写真額が飾ってあったので、よく見ると長野オリンピック関連の展示でした。
野沢温泉村は、多くのオリンピック選手を輩出している村としても有名です。
この旅館のご主人の弟さんもそのひとりで、長野オリンピックでは荻原健司・次晴兄弟とチームメイトだったようで、スキーウェアやサイン色紙などが並べられてありました。
併せて、何冊もの旅日記が飾られてあり、この旅館で多くの人がたくさんの思い出を刻んだんだな、と歴史を感じました。
休憩室には野沢温泉の水が飲めるコーナーもあり、お風呂上がりにゆったりと寛げるようになっていました。
休憩室
食事
夕食
食事処
食事は、お部屋とは別の二階の個室でいただきました。食事処入り口ではスタッフがお迎えし、個室に案内してくれます。
食事処 個室
夕食は「めじろ」という個室でいただきましたが、足が投げ出せる掘りごたつ式になっていたので、とても楽に食事をすることができました。
部屋によっては、テーブルになっているところもあるようです。
夕食
夕食の前菜は、時間に合わせて既に並べられ、色合いも美しく、少量ずつ綺麗に盛られています。
テーブルにはお品書きと、写真入りの解説がつき、さらにスタッフの方が丁寧に一品一品説明してくれました。
お料理は、食前酒の花梨酒はじめ、前菜やお造り、主菜やデザートまで、すべて地の物を使っています。
品数は多いのですが、野菜中心でお腹にもたれることもなく、年配の私にとってはちょうど良い分量でした。

お品書きと説明
地元の素朴な伝統料理に上品に手を加えた一品一品には、まるで野沢温泉村全体のおもてなしの真心が感じられるようでした。
前菜のいもなますは、この地方の冠婚葬祭に必ず出てくるじゃがいも料理。
じゃがいもとは思えない絶妙のしゃきしゃき感がくせになり、野沢に来ると食べずにはいられない郷土料理です。
以前、野沢で食べてとても美味しかったので、家に帰ってから作ってみましたが、どうしてもあのしゃきしゃき感が出ませんでした。
前菜の中からまず、いもなますをひと口食べ、ああこれこれ、この味、この食感、と嬉しくなりました。
それから箸をつけたのは、ぜんまいのお煮しめ。濃いめの醤油の味付けは懐かしい母の味でした。
そして初めて食べる林檎サーモン挟み焼き。
しなっとした林檎の食感とサーモンのとろっとした食感。林檎味噌がアクセントになり、甘みと酸味が実にバランス良い味わいでした。
珍しかったのは、むかご真丈とかんずり。
むかご真丈とは、卵焼きのような、かまぼこのような真丈の中にむかごが入っている料理です。
むかごとは、山芋の脇芽に出る小さな球状の芽のことで、我が家でも、田舎からたくさんもらってくると、母がよくむかごご飯を作ってくれたのを思い出しました。
そのむかごが京料理風に品よく変身して、説明書きを読むまではむかごとは思いませんでした。
もうひとつは、かんずり。
かんずりとは、塩漬けにした唐辛子を雪の上にさらして発酵させた雪国独特の調味料のことです。
前菜に出されたかんずり酒盗は、かつおの内臓をかんずりに漬け込んだもので、一緒に頂いたこの地方の日本酒にとてもよく合いました。
昔の人が、これを肴にお酒を飲むと盗まれるように酒がなくなっていくから「酒盗」と言ったそうですが、それに一手間加わったかんずり酒盗は、まさに最高のお酒のお供です。
お造りの白身の雪鱒にもわさびの代わりにかんずりが登場。
これまた白身のお刺身には、旨辛の赤いかんずりがとてもよく似合います。
蒸し物のじゃがいもまんじゅう、台の物の豆乳鍋と、どれを取っても遜色なく、ここまでで十分日本酒がすすみました。
主菜の信州牛のローストビーフは箸で切れるほど柔らかく、きのこがたくさん入ったあんかけご飯、林檎のワイン煮などデザートまで全て美味しかったのは言うまでもありません。
忘れてはいけないのは、お代わり自由な当館自家製の野沢菜漬け。
買った野沢菜漬とは色味も味も一味違う、なくてはならない一品でした。
追加してもらった野沢菜まで全て完食したのは、本当に久しぶり。過不足ない満足感で、そんなところにもお料理の作り手の細かな配慮が感じられました。
もし量が足りないと思われる人は、事前に申し込みをしておくと別の追加料理もあるので、スタッフの人と相談して注文することもできるそうです。
飲み物は、ソフトドリンクからアルコール類まで何種類か揃っていましたが、日本酒好きの夫に合わせ、今回はお酒にしました。
日本酒も長野の地酒が何種類か選べます。
私たちが選んだのは、野沢のお隣の飯山市の酒蔵、田中酒造さんの「水尾」というお酒。
お酒なのに、白ワインのようなほんのりとした果実味があって、口当たりがよく、どのお料理の味にも合いました。
旅行の醍醐味のひとつは、その土地の料理をその土地のお酒と一緒に食べること。さかやでの夕食はまさにその醍醐味を思う存分味わわせてくれました。
朝食
朝食 個室
翌日の朝食は、昨夜と同じ個室でいただきました。
朝ご飯は、普通のご飯と麦とろご飯、そして温泉粥が選べます。温泉に来たのだからと、温泉粥を選びました。
朝食
朝食は和食の定番でしたが、温泉粥はありがたいおもてなしでした。と言うのも、私は、旅行の時はたいてい朝食があまり喉を通らないのです。
今回は温泉粥があまりに美味しく、味噌汁やきんぴらごぼう、焼き鮭、海苔、ほうれん草の胡麻よごし、野沢菜、じゃがいもなます、厚揚げ焼き、薬膳まんじゅう、ぶどうにオレンジジュースと完食しました。
野菜中心のおかずと、何より温泉粥はお腹に優しく、朝からしっかりスタートできた気がします。
食事処の廊下には沸かしたてのコーヒーのサービスがあり、紙コップでお部屋に持って帰ることもできました。
コーヒーサービス
まとめ
野沢温泉村の老舗旅館さかやは、素朴ながらもおもてなしの心配りが感じられるとても良い旅館でした。
特に心配りを感じたのは、食事中に寝具の用意をしたことへのお断りのメモ。支度をしてくれたスタッフの名前まで明記されていました。
こういったお断りのメモがあると、ほっと心もほころびます。
そこには、温泉や食材も含め、この土地の自然の恵みを大切に守り伝えてきた人々の温かい心が息づいているようでした。
また、チェックアウトが午前11時というのも、年配者にとってはありがたいことのひとつです。朝の散策をして朝風呂に入ってもゆっくりできるので、翌日の観光にゆとりができます。
旅館さかやは、また訪れたい旅館のひとつになりました。
旅館さかや
住所 長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9329
電話番号 0269-85-3118
駐車場 30台(無料)
公式サイト ryokan-sakaya.co.jp